自立支援医療2(介護うつ)

自立支援医療(精神通院)が、認知症の治療に利用できることは「とっても助かる!自立支援医療」で紹介しましたが、自立支援医療(精神通院)は、精神医療の通院に対して、医療費の自己負担を軽減する制度なので、うつ病などの精神疾患も対象になります。

もし、介護する家族が、精神的な病にかかったとき、自立支援医療が使えるかもしれません。

私も、今は調子がいいので利用していませんが、以前は自立支援医療で訪問看護(精神科訪問看護)に来てもらっていました。

精神科で薬も処方されてはいましたが、それよりも、訪問看護師さんたちの支えがあったからこそ、今、認知症の夫と楽しく暮らせるまでになれたと思っています。

以下は、私が自立支援医療を利用して、訪問看護に来てもらった記録です。

自立支援医療の手続きや概要を知りたい方は、「とっても助かる!自立支援医療」をお読みください。


介護する家族への訪問看護

介護する家族が訪問看護に来てもらて、なにをするかというと、ほとんど話をしているだけです。

夫の前では言えないような話を聞いてもらったり、夫の前では聞けないような介護のアドバイスをもらったり、自分の行動が常軌を逸していないか確認したり、夫への対応で追い詰められる私と、追い詰められた私に世話をされる認知症の夫、二人きりだと行き詰る一方の家庭内に、第三者に入ってもらう。

訪問看護師さんたちは、社会から孤立した状況で介護する私の、グチ聞き兼、アドバイザー兼、わが家の見守り役です。

本来ならば、訪問看護師ではなく、そのような職種が存在することが望ましいですが、私があのとき、自分を助けてもらうために使えた制度が、自立支援医療であり訪問看護でした。

国は、在宅介護を推し進める方針なのであれば、介護する家族を支えるプロを養成し、活用する制度を考えるべきだと思います。


経緯

私が、自立支援医療で訪問看護に来てもらうことになった経緯です。

話を聞いてくれる人

私はわりと、辛いときは辛いと周りの人に助けを求めることができるのですが、コロナ禍になり、人と会うことができなくなったことで、それが難しくなってしまいました。

さらに、認知機能の低下やコロナ禍による環境の変化により、夫の周辺症状が爆発して、その対応をする私の気力や体力は、ゴリゴリと削られていくばかりです。

そこに追い打ちをかけるように、夫が徘徊中に頭からこけて額を数針縫うケガをしました。アスファルトに打ち付けたので、傷口はひどいありさまです。

けれども夫は、徘徊を止めることもなく、自分の額の傷をいじり出血を繰り返します。

私は、精神の不調が体に出てくるようになってきました。

夜中に泣きながら、認知症の家族を自宅で介護していたことがある知り合いに電話をして、話を聞いてもらいました。知り合いの人柄もありますが、経験者に話を聞いてもらうことは、介護をする私にとって、とても癒しになります。共感という部分が、どうしても経験者ではないとできないのです。

知り合いは、訪問診療も行っているクリニックに勤める看護師でもあります。それで、知り合いのすすめもあり、私はまず、そのクリニックで自分を診てもらうことにしました。

在宅介護を見ている医師

その日、私を担当してくれたのは、在宅診療に力を入れている医師で、インフルエンザの予防接種をしてもらったり、クリニック外での面識もある医師でした。

診察室で私は、今に至る私と夫の状況、私たちを取り巻く環境の話をしました。

在宅介護を見ている医師は、在宅のしんどさ辛さを見てきているのはもちろん、介護保険制度についてもある程度知っています。

当時、コロナ禍のために、私は外部との接点がほとんどなく孤立状態でした。そこで担当医は、夫の介護保険を利用して、訪問看護に来てもらうことを提案してくれました。

正攻法ではないかもしれないけれど、夫に訪問看護に来てもらうというていで、私が外部の人と接する機会を作る。この方法だと、夫がいる時間しか訪問看護には来てもらえませんが、私の孤立状態が少し軽減される。

さらに担当医は、私が今しんどい状況を、夫のかかりつけ医とケアマネージャにしっかり話しなさいと言いました。

介護はチームだから、夫を担当する医師とケアマネージャーがそれを知っていないと、いい方向に行かない。

介護保険の認定調査で医師が書く意見書、そこに介護する家族の状況を書くのもかかりつけ医の役目だから、夫のかかりつけ医にもしっかりと自分の状況を伝えなさい、と言われました。


在宅介護について、かかりつけ医とは別の医師から助言をもらえたのは、貴重なことでした。

担当医が言ったように、介護はチームです。夫の介護にも、いろいろな職種の人が参加してくれていて、その職種ごとの目線や考え方があります。

あのときの「主治医意見書に家族の状況を書くのも、かかりつけ医の役目だ」といった発言は、まさに、介護に携わる医師らしい目線と考え方だと思います。

夫のかかりつけ医

知り合いが働くクリニックに行った次の日、私は夫のかかりつけ医がいるクリニックに、ひとりで行きました。そのころ私は、夫と同時診察で、抑肝散を処方してもらっていたので、自分の診察もかねていました。

※抑肝散 神経の高ぶりをしずめる漢方。認知症の人の周辺症状に対して処方されることもあります。

夫が頭をケガをしたことで、私の気力が落ちて手に負えなくなってきていること、けれども、夫はぜんぜんおとなしくしてくれないことなどを話し、介護保険の区分変更を申請することになったので認定調査の主治医意見書に家族の状況を書いてほしいことと、訪問看護に来てもらいたいことを伝えました。

そのとき、かかりつけ医から精神病床へ夫を入院させることをすすめられました(数日後、入院してもらおうと決断したのですが、結局やめました。そのことは、また別で書きます)。

夫の診察ではあまり長い時間をかけない医師が、私の話は30分ほど聞いてくれました。私が診察室に入るときは待合に誰もいなかったのに、出たら5,6人待っていたので、少し申し訳なくなりましたが、以後、診察に時間がかかっている人は、それだけ困っている人なのだと思うようになりました。

ケアマネージャー

夫のケアマネージャーは、いつも親身になってくれる人ですが、夫が額を縫うケガをしたときは、いつもに増して親身に動いてくれました。たぶん夫のケガについては、私以上に心配していたと思います。さらに、夫以上に私のことを心配していたんじゃないかと思います。

夫は、介護保険を使って1週間に1回30分、訪問看護に来てもらうことになりました。それは、私が夫以外の人と対面で話せる時間が、1週間に1回30分ということです。

夫のケアマネージャーは、それでは私にとって時間がたりないし、夫がいない場所で私が話せる必要があると感じていたようです。実際、そのとおりです。

そこで、私が自立支援医療を受けて、私に対して訪問看護に来てもらえばどうかと提案してくれました。私が精神科に行き、介護によるなにかしらの精神疾患だと診断がつけば、精神科訪問看護が受けられると。

そういわれて私は、はたして今、自分が治療を受けないといけない状態なのかということと、医療費(公費)を使ってまで治療しないといけない問題なのだろうかと、しばらく考えました。

確かに、なんでもないのに涙が出たり、眠たいのに寝られなかったり、お腹が空いているのにご飯が食べたくなかったり、精神的な不調が体にも出ていました。

ですが、それよりも、この状況を好転するきっかけが、どこにも見当たらなかった。

私は、わが家の状況が少しマシになる可能性を求めて、精神科医がいるクリニックを受診することにしました。

精神科医

私の担当医となった医師は、まあなんというか、可もなく不可もなくです。

いや、よかったところはあって、それは、初診で私の話を聞いて、私に疾患名をつけてくれて、自立支援医療の申請書を書いてくれること、さらに自立支援医療による訪問看護指示書を書いてくれることを約束してくれました。

私の目的は、訪問看護に来てもらうことなので、それを可能にしてくれる医師なら、よっぽどひどい医師でなければ可です。

精神科訪問看護

申請や認定のために少し時間はかかりましたが、夫がデイサービスに行っている時間に、私に訪問看護師さんが来てくれることになりました。

それも、1週間に2回、1回につき1時間、対面で私の話を聞いてくれるのです。

訪問看護ステーションは夫と同じところにお願いしました(夫への訪問看護は、夫の額の傷が治癒したころに一旦やめました)。

夫と同じ訪問看護ステーションということは、在宅介護をよく知る看護師であり、家の中に入って、介護する家族のしんどさや辛さ、苦労を見てきている人たちだということです。

さらに、看護師は介護のプロではありません。そこが、私にはよかったのだと思います。介護職の人は、介護の知識や経験があるので、その知識や経験に引っ張られた目線で家族介護を見ます。けれども私は、介護のプロの目線ではなく、家族の目線で見てほしかったのです。

実際に、家族の介護をしたこがなければ、家族の目線を持つことは難しいですが、家の中に入って家族の介護を見ている訪問看護師さんたちには、家族の目線とはまた別の、訪問看護師としての目線があり、そこに私は救われました。

看護師さんに「薬なんて、7~8割飲ませられたら上出来」と言われたら、安心しますよね(毎日きちんと飲まないと健康状態にかかわる薬ではないです)。

「ご飯なんて、1食ぐらい抜いても大丈夫」「1週間に1回、お風呂に入ってるのなら、問題ないよ」と言われたり、殴り合いしたら「二人とも大ケガしないように、気をつけてね」「(殴るとき)道具は使わないように」と言われる。

もしかしたら、私のところに来てくれていた看護師さんたちが特別なのかもしれませんが、殴り合いのケンカをやめるようには、一回も言われなかったです。

ケンカ以外にも問題があれば、私は看護師さんたちに報告していました。それは、自分の行動が常軌を逸していないか、夫と私の関係が危機的状況に陥っていないか、冷静に判断できない私の見張りをしてもらうためです。

訪問看護師さんたちに見守ってもらえたことで、過酷だった日々を乗り越えることができました。訪問看護師さんたちなくして、今のわが家のおだやかな在宅介護は、成しえなかったです。

訪問看護師さんたちには、引き続き、夫の訪問看護でお世話になっています。


自分や家族のことを他人に知られすぎることに抵抗がある人もいるかもしれませんが、知ってもらえているからこそ、いざというときに、迅速に対応してもらうことができると思います。

もし、家族の介護で自身の心や体がおかしくなっているなら、一度、精神科の医師に相談してみてはいかがでしょうか。

介護する家族を支える

自立支援医療で訪問看護に来てもらうためには、家族が精神疾患になるまで、介護で追い詰められなければなりません。

ですが、本来なら、介護する家族の健康が蝕まれないよう予防するために、介護する家族を支えてくれる人たちが必要です。

今現在、介護する家族は、個人的なつながりや、ボランティア活動に、サポートしてもらっていますが、専門職として、介護する家族を支える職種の人たちがいれば、家族の助けになるのになと思います。