認知症と引っ越し

認知症の人の引っ越しで、家族が心配することのひとつが、引っ越しによって認知症が一気に進むのではないかということです。

夫は認知症になってから、3回引っ越しをしています。

私も引っ越しのたびに、夫の認知症の進行具合に影響がないかは気になりましたが、それでもこの先二人が一緒に暮らすためには、引っ越しが必要だと思ったので、敢行しました。

引っ越しによって、夫の精神は一時的に不安定になりました。ですが私は、引っ越しによって、以前よりいい環境で夫の介護ができるようになりました。

まず私にいい影響があり、そのいい影響が夫に伝播して、夫の引っ越しによる精神不安が薄らいでいった。わが家は、そのような感じです。

夫が引っ越し先の環境に慣れるまでの間に、夫の認知症が一気に進んだかといわれると、なんとも言えないなというのが正直なところです。なぜなら私は、引っ越しをしなかった場合の夫を、見ていないからです。実際に比べられないものを比べても、どうしようもないと私は思います。

認知症の症状は人によって千差万別です。引っ越しによって認知症に多大な影響を受ける人もいるでしょう。

そこは賭けのようなものがあると思います。賭けの結果はいくら考えても、実際に賭けてみないとわかりません。

なので、賭けよりもいく分かは先の見通しが立ちやすい、引っ越しによって認知症の人の介護を担う人が今よりらくになれるかどうかに重きを置いて、考えてみてはどうかなと思います。

その次が、引っ越しによって認知症の人が幸せになれるかどうかです。

なぜ介護を担う人を優先するのかといえば、介護を担う人の心のゆとりが、認知症の人の心のゆとりに直結しているからです。

そして、認知症が進むことがすなわち不幸なことではありません。認知症が進んでも人は幸せを感じることができます。

今現在、認知症は進行を止めることができない病気です。

どこに住んでいても生きていれば認知症は進みます。

ですから、引っ越しや環境の変化で認知症が進むことを懸念するより、認知症の人と家族が不幸にならないようにすることを考える方が、現実的だと思います。

大切なことは、認知症の進行を遅らせることよりも、認知症の人とその周りの人が少しでも幸せに暮らせること。

そして、認知症の人が幸せを感じるためには、その周りにいる人がまず幸せでないといけません。