夫の認知症の症状

エッセイ

「わからない」とは 2

世の中は、わからないことで溢れかえっています。そして、わからなくても生活するには支障がないことも、山ほどあります。私たちは、わからないことを「わからないといけないこと」「わかったほうがいいこと」「わからなくても、自分は困らないこと」「どんなにがんばってもわかるようになれる気がしないこと」「わかりたく...
エッセイ

認知症 その周辺と影響症状

認知症について『周辺』という言葉が使われるとき、それはたいてい『周辺症状』について語られる場面です。認知症の症状は、大きく『中核症状』と『周辺症状』の2つにわけられます。『中核症状』とは、ものが覚えられなくなる、火や刃物の危険性がわからなくなる、今がいつなのか、ここがどこなのかわからなくなる、段取り...
日記

『夫の老い』と『私の若さ』 それぞれに必要な時間

朝、夫が「死にそうなんだから」と言って、着替えを拒んだ。死にそうだから着替える意味がないのか、死にそうだから着替えられないのか、死にそうだから着替えたくないのか、それは私にはわからない。死にそうだからなんなのか、夫自信も、よくわかっていないだろう。いろいろなことが『わからない』。その感覚に、夫は死を...
エッセイ

わからないことだらけなのは『わかる』のに、わからないことがなにか『わからない』

私たちは日々、わからないことに直面しています。たとえば、最近増えた、セルフレジ。あの精算機は、お店によって、お金を入れる場所、お札を入れる方向、おつりやレシートが出る位置がバラバラ。精算が終われば自動でレシートが出るものもあるけれど、中にはレシートを出すのか領収証を出すのか、選択しなければならないも...
エッセイ

認知症の人たちの人となり

認知症になっても、夫はジェントルマンだ、という話です。夫が利用しているショートステイのスタッフさんが教えてくれました。ショートステイ内で認知症のある利用者さんが、別の認知症のある利用者さんを批判していたそうです。批判の内容は、なにかしようとしているけれどうまくできない利用者さんを責めるようなものでし...
エッセイ

夫のメモが教えてくれたこと

夫の荷物を整理していたら、同じことが書かれたメモが何枚も出てきた。夫の字で書かれた、成田空港に行くためのバスと電車の時刻。それは、夫が、私に会いに、成田から関西空港行きの飛行機に乗るために書いたもの。夫がそのメモを書いたのは、夫が初めて認知症外来を受診した、1年以上前のこと。病院に行くことを強く拒む...
日記

大切な怒り 私は夫の怒りを聴く

「そこで、そうやって見ているだけなのか」出かけたいのに、ひとりでは着替えられない夫が、怒りながら、着方がわからないシャツを床に叩きつけた。「そんな言い方で手伝ってくれる人なんていないよ」私は言い返す。これは、私と夫の真剣勝負だ。私は、夫の怒りを受ける。夫の怒りを収めることはせず、吐き出させる。今まで...
日記

夫が帰りたいところ 目印としてのふるさと

夫は、よく家に帰りたがる。それは、帰宅願望といわれる、認知症の症状のひとつ。家にいるのに、家に帰りたがる。夫が帰りたい家。それは、今、私と住んでいる家ではない。夫が帰りたい家。それは、生まれ育ったふるさとの家、のようで、そこだけではない。ふるさとに帰っても、夫の生家は、もうない。そのことを夫は、覚え...
エッセイ

認知症の人を傷つける人

夫は、認知症の周辺症状でも、とくに帰宅願望が強かったです。そして、夫が「帰る」と言うとき、そこには、私の負担になりたくない、という思いが込められていました。私たちは、夫が認知症になってから結婚していて、夫には『おかしくなっていく自分と結婚する』という私の行為が、理解できないようでした。実際、夫に「な...
日記

夫が安心していられる場所

夫の「帰る」という言葉に込められた思い。今までできたことができなくなり、なにを考えてもよくわからなくて、自分が壊れていくようで、不安、怖い、逃げたい、『安全で安心できるところに帰りたい』。体の具合が悪い夫が「帰る」と言う。その言葉の根底には、『自分を不安にするものがない、安心して休むことができるとこ...