夫が、自分の認知症に対して発した言葉。
「人間にたいして失礼だろう」
夫にとっては深刻な問題なのだろうが、それを聞いた私は、夫の表現のすばらしさに衝撃を受けた。
なんてわかりやすく素直で的確な表現だろう。
加えて夫は「頭をボカンと殴ってやりたい」とも言った。
認知症には、頭どころか形がないので殴れない。
でもこの表現が、認知症の夫の世界の見え方を表しているように思える。
夫は、自分が認知症だと知らない。厳密には、教えても忘れるし、認知症がどんな病なのかを説明しても理解しようとしない。
たぶん夫は、認知症という病について興味がないのだ。
けれども、今までできたことができなくなり、なにか考えても、なにを考えているのかわからなくて、自分が壊れてきている、ということは誰よりも知っている。
「なぜ、こんなことになったのだろう」と夫に聞かれて、「脳みそが小さくなる病気で」と説明したこともあるが、その説明を夫は拒否した。
夫が知りたいのは、認知症という病気についてや病気が及ぼす影響、ではなのだう。
たぶん夫が知りたいのは『自分自身について』なのだ。
自分の言葉で、自分の中の現実と向き合っている夫。
私は、自分と向き合えている夫を誇りに思う。
そして自分の思いを教えてくれる夫。
私は、夫の言葉が聞けることをありがたいと思う。
これは、私の過去(2020年10月)の日記を加筆修正したものです。