プライスレス

ひとコマ・詩



 ふだん、あまり自己主張しない夫が
 ショッピングセンターの中にある
 サイゼリヤに行く途中
 「あれ、食べる」と、声を弾ませた。

 その視線の先には、夫が大好きな
 ビフカツやビフテキの写真。

 夫がこんなにはっきりと
 自分の望みを口にするのは、久しぶりだ。

 私はうれしくなって、
 夫の願いを叶えるべく、
 メニューを見た。

 一人前がサイゼリアの二人分よりも高い。
 「、、、うん。
  ここは、お誕生日にしよう。ね」

 車イスとは、便利な乗り物である。

 そのあと夫は、
 ミラノ風ドリアを
 うれしそうに食べていた。

これは、今年の3月ごろのことで、夫のお誕生日は11月。

まだ、8か月も先だった。

ちなみに、その前に夫が「おいしそうだね」と言って、買って欲しがったのは、ケーキでした。

ショッピングセンターの中にある、ケーキ屋さんのショーウインドーが、ぱっと目に入ったみたい。

その日は、もともと予防接種をがんばったご褒美に、おいしいものを食べさせてあげるつもりだったので、迷わず買ってあげました。

ショッピングセンターで、集団接種が行われていた時期ですね。

考えてみると、ショッピングセンターは、一か所でいろいろなお店が見られ、適度に刺激があり、車イスでも移動しやすく、ぜったいに多目的トイレもある、とてもいい場所です。