私にもわからないよ

ひとコマ・詩


 
 ケンカした
 夫が私のもとから逃げていく

 雨の中
 傘もささず
 行き先もわからず
 私から逃げていく

 あせった足が濡れた坂で滑り
 尻もちをついた

 傘の下で 私はそれを見つめていた

 ひとりで立ち上がった夫が
 また歩きだす

  助ける気に なれなかった
  もうなにも したくなかった
  ついていくだけで せいいっぱい        

 夫の足が止まる
 ふり向き
 私を見る

「ぼく、どこに行けばいいの」

  どこに行けばいいのかなんて
  私にもわからないよ
  どうすればいいのか
  わからないよ

 持ってきたパーカーを濡れた夫に着せた

私を助けたのは、夫が、最後に私を頼ったということ。

たとえ、夫が雨に打たれ、風邪をひき、肺炎になったとしても、私が風邪をひくわけには、いかなかった。

私が寝込むわけには、いかなかった。

最低限のところだけ、押さえてた。

それだけできれば、充分でしょ。