ひとコマ・詩

ひとコマ・詩

執着心

夫は、自分の場所に帰りたがった  ありったけのエネルギーを燃やして  自分の居場所を探し求めた  夫から執着心が放たれることは  もう、きっと、ない  落ち着いたと言えば聞こえはいいが  なにかに執着するためのエネルギーが  散ってしまった、ようにも思え  一抹のさみしさを感じた  認知症という病が...
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栄養になる無駄

本屋さんをぶらぶらして  気になった本をぱらぱらめくる  100円ショップをぶらぶらして  いるようないらない物を見てまわる  テレビをつけてスマホをいじり昼寝する  一見、無駄に思える時間  その無駄が、私には必要で  自分のための無駄な時間が  私の栄養 そんな時間を過ごせるのは、夫がデイサービ...
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『ぼく きらわれたんだ』

「ぼく きらわれたんだ」 目を伏せ、うなだれる夫 タブレットをいじりながら 自分の相手をする妻へ 渾身のしょんぼり この詩は、もともと、もう少し長かったのですが、『これでヨシ』と思った後に、思い直し、その後、何度も書き直しました。 それは、このときの夫の言葉と仕草から、私が感じたことがたくさんあり、...
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人間らしく生きる

人間らしく生きようとすれば  傷つかない生き方はできない  尊厳を傷つけられる場面  人として生きていれば  それは、あってあたりまえ  私は  夫に  最後の瞬間まで  人として生きていてほしい  私は  夫が傷つくことを  過度に恐れない  大切なのは  傷ついても  なお  『生きていこう』と...
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あの ぼくに つづく道

道 つれていって あの 場所に ぼくの あの 場所に あの いろ あの におい あの おと あの くうき つれていって あの ぼくのところに 夫の認知症の症状の中で、夫と私、ふたりを一番いたぶったのが、『帰宅願望』だった。 ある日、今、自分が浜松(夫の母の実家)にいると思った夫が、歩いて鎌倉(出身地...
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芝生の上で

私はただその瞬間  そこにじっとしていてほしくて  起き上がろうとする夫を幾度も  地面に叩きつけ抑えつけた  車が行き交う道路を歩かせる  危険から夫を守る  そのことに疲れた私は  公園の芝生の上に夫を引きずり込んだ  そして  そのとき私が考えついた方法が  それしかなかった 芝生の上で、夫を...
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小雨降る 夜の逃避行

夫がいかに理不尽なことを  私に強いているのか    その怒りを夫にぶつけていたら  私の話を聞いて  この家に ひどいオヤジがいて  そのオヤジが 私をいじめていると  思い込んだ夫  「うちにおいで 一緒に行こう」  「出て行ける? 大丈夫?」  小雨が降る夜の街を相合傘で歩いた  まさか私の人...
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私にもわからないよ

ケンカした  夫が私のもとから逃げていく  雨の中  傘もささず  行き先もわからず  私から逃げていく  あせった足が濡れた坂で滑り  尻もちをついた  傘の下で 私はそれを見つめていた  ひとりで立ち上がった夫が  また歩きだす   助ける気に なれなかった   もうなにも したくなかった   ...
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私の望みを叶える言葉

打ち上げ花火の音がする。  ベランダから空を眺めたけれど  花火は見えない。  「一緒に外に行って、探そうか」  夫が、そわそわする私に言った。    けれども私は、  行かなくていいと返事した。  当時、私たちは、  エレベーターがないマンションの  3階に住んでいて、  夫は、階段の上り下りが苦...
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自分を守る術

『起きてこなければいいのに』   夫の寝顔を見ながら、そう思って泣いた   ひとりで家を出て行こうとする夫に  『ひとりで生きていけないくせに   ひとりで出て行って   どうやって生きていくんだ   もう追いかける気力もない   心配もしたくない   どこかに行ってしまえ   消えてしまえ   死...