日常のひとコマ

日記

抱きごたえのある背中

夫の背中  けさ  いつもより重い  ごきげんななめの体を抱えて  なんとかベッドのふちに座らせたら  体をうしろに倒してくる夫  このままだと  夫の頭がベッド柵にひっかかる  なによりも   もういちど起こすのが  めんどくさい  なんてときには バックハグ  抱きごたえのある 夫の背中  しば...
日記

夫が教えてくれる

夫の肩    「ぼく わからないんだ」  あさ 夫が つぶやいた  「なにが わからないの」  私が たずねる  「わからない」  ベッドのふちに  並んで  座った  夫は 肩を  落としているようだった  こんなとき 私は  夫の肩を抱けてよかったと思う 夫は、認知症になり始めたころから、『わか...
日記

わたし あたまが ぱーだから

「わたし あたまが ぱーだから」  夫が突然 そんなことを言った  私は 笑いながらも  それ以上におどろいた  夫からそのようなセリフを  聞いたことがなかったし  夫が笑いをとりにいくときの  スタイルでもない  夫が認知症対応型デイサービスに  行き始めたころ  「あんな人たちと一緒にいたくな...
ひとコマ・詩

私にもわからないよ

ケンカした  夫が私のもとから逃げていく  雨の中  傘もささず  行き先もわからず  私から逃げていく  あせった足が濡れた坂で滑り  尻もちをついた  傘の下で 私はそれを見つめていた  ひとりで立ち上がった夫が  また歩きだす   助ける気に なれなかった   もうなにも したくなかった   ...
ひとコマ・詩

私の望みを叶える言葉

打ち上げ花火の音がする。  ベランダから空を眺めたけれど  花火は見えない。  「一緒に外に行って、探そうか」  夫が、そわそわする私に言った。    けれども私は、  行かなくていいと返事した。  当時、私たちは、  エレベーターがないマンションの  3階に住んでいて、  夫は、階段の上り下りが苦...
ひとコマ・詩

プライスレス

ふだん、あまり自己主張しない夫が  ショッピングセンターの中にある  サイゼリヤに行く途中  「あれ、食べる」と、声を弾ませた。  その視線の先には、夫が大好きな  ビフカツやビフテキの写真。  夫がこんなにはっきりと  自分の望みを口にするのは、久しぶりだ。  私はうれしくなって、  夫の願いを叶...
ひとコマ・詩

さいごにひとりで買ったのは

さいごにひとりで買ったのは  「いつもの公園に行ってくる」と、  夫がひとりで出かけようとしている。  私は、急ぎでやりたいことがあり、  手を止めたくなかった。  毎日ふたりで行っている公園だし、  わかりやすい道だし、夫も迷わないだろう。   ひとりで行ってもらうことにした。  けれども、だんだ...
ひとコマ・詩

もしあのとき、私が握っていたのが、傘じゃなかったら

もしあのとき私が握っていたのが   傘じゃなかったら   なにひとつ、思うようにならない。  デイサービスに行った夫が、途中で帰ってくる。  家事をしている最中に、夫が出て行く。  ひと息ついた途端、夫が出て行く。  ぜんぶ後回しにして、夫に付き添う。   なにひとつ、思うようにできない。  それで...
日記

テーブルの上にきちんと揃えられた汚い靴下

食卓テーブルの上に  私が脱ぎ散らかした靴下が2枚  伸ばして 揃え 二つに折られて  置かれている  私と夫しかいない わが家  こんな丁寧な仕事をするのは  夫しかいない  このきちんと畳まれた靴下を見ていると  なんだか きれいな靴下に、、、  いや、見えてこない  これは 私が一日履き  さ...
日記

スイカのタネ「プッ」

その昔、夫は  「スイカのタネは、食べても大丈夫」  だと言って、タネごとスイカを食べていた  たぶん、タネを出すのも、取るのも  めんどくさかったのだろう    なのに今、夫がスイカのタネを  「プッ」と吹き飛ばしている  固くておいしくないので  タネを異物として認識したようだ    食べても大...