認知症とともに暮らす

エッセイ

出会いと結婚

私と夫が出会ったとき、私は20代前半、夫は50代後半でした。 私は、夫と出会って数日で、今が自分を変えるチャンスだと悟りました。 今この人についていかなければ、私の人生は生きがいもなく、ただ過ぎていくだけだろう、と。 私は中学1年生の2学期から不登校ぎみになり、3年生のときは、ほとんど学校に行ってい...
日記

お茶目さん

左手は夫、右手は車イスをにぎり  ショッピングセンターを散歩中  夫が「疲れた」とつぶやいたので  車イスに座らせようとした矢先  へたり込むように腰を屈めた夫  「チョットマッテ」  あわてる私  おしりが地面に着くと  持ち上げるのがやっかいなのだ  と、次の瞬間  「ウソッ」  と言って、すっ...
日記

手のかかる子ほど

手をとり 向かい合わせで歩く  夫と私  今日は 夫の足どりがいい  にやっと笑った夫が 掴んだ私の腕を  強く揺さぶる  「アッ」  揺れた拍子に 二人の手が離れ  バランスを崩した夫の顔が 驚きにかわる  とっさに夫を掴み 抱きとめる  「もー ふざけてるから   こういうことに なるんよ!」 ...
エッセイ

認知症 その周辺と影響症状

認知症について『周辺』という言葉が使われるとき、それはたいてい『周辺症状』について語られる場面です。 認知症の症状は、大きく『中核症状』と『周辺症状』の2つにわけられます。 『中核症状』とは、ものが覚えられなくなる、火や刃物の危険性がわからなくなる、今がいつなのか、ここがどこなのかわからなくなる、段...
エッセイ

言わないでほしい言葉

『認知症になった本人が一番つらい』 そう言われた時、認知症の人の暮らしを支えている家族は、自分のつらさを、どう処理すればいいのでしょうか。 本人がつらい。それは、確かにそうです。 今までできていたことが、できなくなっていき、自分の中から何かが失われていく恐怖が、常につきまとっているのですから。 では...
エッセイ

プレッシャーを取り除いてくれた、ヘルパーさん

この5月で、ヘルパーさんに夫の夕食を作ってもらうようになってから、1年4か月になります。 そして、ここ3年ほど、私は、まともに料理をしていません。 料理をしなくなったいきさつは、私が台所でご飯を作っていると、認知症の夫が居間から私のことを何度も同じ用事で呼んだり、ひとりで外に行こうとしたり、気づいた...
エッセイ

家族介護 ケンカと葛藤

私は、父や母を在宅で介護するつもりはない。 母はパーキンソン病で、今は父と2人で暮らしている。 でもいつか父の介助だけでは、母が自宅で暮らせなくなる日がくるだろう。 そうなっても私は、実家に足しげく通って母の介護の手伝いをするつもりはない。 「お母さんが、お父さんのサポートだけでは家で生活できなくな...
日記

私は、私に私のことを伝え、それを聴き、自分自身に寄り添う

また夫が、家にいるのに「帰る」と言いだした。 私は大きくため息を吐く。 これは自然に出たため息ではなく、わざと吐き出したため息だ。 ため息で、私は、自分の機嫌の悪さを自分に伝えている。 夫への当てつけもあるが、それよりも、自分で自分の気持ちをはっきり意識するために。 認知症の症状のひとつ、帰宅願望に...
日記

『夫の老い』と『私の若さ』 それぞれに必要な時間

朝、夫が「死にそうなんだから」と言って、着替えを拒んだ。 死にそうだから着替える意味がないのか、死にそうだから着替えられないのか、死にそうだから着替えたくないのか、それは私にはわからない。 死にそうだからなんなのか、夫自信も、よくわかっていないだろう。 いろいろなことが『わからない』。 その感覚に、...
エッセイ

わからないことだらけなのは『わかる』のに、わからないことがなにか『わからない』

私たちは日々、わからないことに直面しています。 たとえば、最近増えた、セルフレジ。 あの精算機は、お店によって、お金を入れる場所、お札を入れる方向、おつりやレシートが出る位置がバラバラ。 精算が終われば自動でレシートが出るものもあるけれど、中にはレシートを出すのか領収証を出すのか、選択しなければなら...