認知症とともに暮らす

ひとコマ・詩

自分を守る術

『起きてこなければいいのに』   夫の寝顔を見ながら、そう思って泣いた   ひとりで家を出て行こうとする夫に  『ひとりで生きていけないくせに   ひとりで出て行って   どうやって生きていくんだ   もう追いかける気力もない   心配もしたくない   どこかに行ってしまえ   消えてしまえ   死...
ひとコマ・詩

わが家の座敷わらしちゃん

うちには、座敷わらしが居ます。  私には、見えませんが、  夫には、見えます。  うわさによると、  純粋で澄んだ心がないと、  座敷わらしには、会えないそうです。  おしゃべりしているときの  夫の口ぶりからさっするに、  うちの座敷わらしちゃんの見た目年齢は、  砂かけばばあ や 子泣きじじい、...
ひとコマ・詩

プライスレス

ふだん、あまり自己主張しない夫が  ショッピングセンターの中にある  サイゼリヤに行く途中  「あれ、食べる」と、声を弾ませた。  その視線の先には、夫が大好きな  ビフカツやビフテキの写真。  夫がこんなにはっきりと  自分の望みを口にするのは、久しぶりだ。  私はうれしくなって、  夫の願いを叶...
ひとコマ・詩

さいごにひとりで買ったのは

さいごにひとりで買ったのは  「いつもの公園に行ってくる」と、  夫がひとりで出かけようとしている。  私は、急ぎでやりたいことがあり、  手を止めたくなかった。  毎日ふたりで行っている公園だし、  わかりやすい道だし、夫も迷わないだろう。   ひとりで行ってもらうことにした。  けれども、だんだ...
ひとコマ・詩

もしあのとき、私が握っていたのが、傘じゃなかったら

もしあのとき私が握っていたのが   傘じゃなかったら   なにひとつ、思うようにならない。  デイサービスに行った夫が、途中で帰ってくる。  家事をしている最中に、夫が出て行く。  ひと息ついた途端、夫が出て行く。  ぜんぶ後回しにして、夫に付き添う。   なにひとつ、思うようにできない。  それで...
ひとコマ・詩

思いやりの位置

ふたりで歩くとき  いつも 夫が車道側にいてくれた  ふたりとも話に夢中になって  いつのまにか  私が外側を歩いていたときは  「こっちだろ」と夫が  私を内側にひっぱった  夫が危険予知できなくなってからも  ふたりの歩く位置は かわらず  もし 私が危険を察知したとき  私が外側だと  夫を押...
日記

テーブルの上にきちんと揃えられた汚い靴下

食卓テーブルの上に  私が脱ぎ散らかした靴下が2枚  伸ばして 揃え 二つに折られて  置かれている  私と夫しかいない わが家  こんな丁寧な仕事をするのは  夫しかいない  このきちんと畳まれた靴下を見ていると  なんだか きれいな靴下に、、、  いや、見えてこない  これは 私が一日履き  さ...
メッセージ

認知症をわずらう家族に寄り添うことは、生易しいことではない

自分自身に寄り添えない状態の人が、他の人に寄り添うことはできません。 そして、寄り添う対象が自分であっても他人であっても、人に寄り添うことは、心がけ次第でやすやすとできることでもありません。 『認知症の人に寄り添う』それがどういうであるかは、人それぞれだと思います。 私にとって認知症の夫に寄り添うこ...
日記

スイカのタネ「プッ」

その昔、夫は  「スイカのタネは、食べても大丈夫」  だと言って、タネごとスイカを食べていた  たぶん、タネを出すのも、取るのも  めんどくさかったのだろう    なのに今、夫がスイカのタネを  「プッ」と吹き飛ばしている  固くておいしくないので  タネを異物として認識したようだ    食べても大...
エッセイ

「わからない」とは 2

世の中は、わからないことで溢れかえっています。 そして、わからなくても生活するには支障がないことも、山ほどあります。 私たちは、わからないことを「わからないといけないこと」「わかったほうがいいこと」「わからなくても、自分は困らないこと」「どんなにがんばってもわかるようになれる気がしないこと」「わかり...